SNSには、特定の趣味や特徴を持つ人々が自然と集まって生じた、さまざまな界隈が存在します。

そんな界隈のなかでも特殊な成り立ちを持っているのが「アライさん界隈」です。

一見すると、アニメで有名な「けものフレンズ」に登場するキャラクター「アライさん」になりきっている人々に見えるものの、実態は一般的なキャラクターのなりきり文化とは異なります。

この界隈で語られるのは、架空の物語ではなく中の人自身の人生であることが非常に多いのです。

今回は、そんなアライさん界隈がどのようにして誕生したのか、そしてネット上でどのような役割を果たしているのかを紹介します。

アライさん界隈の概要

アライさん界隈は、けものフレンズのアライさんを模したアカウントを中心として形成されたネットコミュニティです。

この界隈の特徴は、ユーザーがオリジナルのアライさんと同様に大抵の場合「〇〇なのだ」という口調でX(旧Twitter)に書き込みを投稿することです。

なお、投稿者は見たことがありませんが「〇〇でアライ」「〇〇だクマ」といった語尾を使用するユーザーもいるそうです。

また、多くの場合アイコンはアライさんのイラストが使用されていますが、そうでなければならないというルールはないようで、好みのアイコンを使用するユーザーも見られます。

アライさんアイコンメーカーという、アライさん界隈で使用可能なアイコンを簡単に作ることができるサイトを活用しアイコンを作るユーザーもいるようです。

そして、オリジナルのアライさんは裏表のない陽気な性格のキャラクターとして描かれています。一方で、アライさん界隈のなかにはさまざまな悩みや生きづらさを抱えているユーザーも見られることが特徴です。

アライさんの口調を借りて発言することは「皮をかぶる」と表現されます。

ちなみに、アライさん界隈にはアライさんのみならず、同じくけものフレンズに登場するサーバル、かばん、フェネックなどのキャラクターの皮をかぶったユーザーも散見されます。

アライさん界隈の成り立ち

この界隈は、2019年ごろからX上で目立つようになったとされており、アライさんのアイコンを使用し、オリジナルのアライさんを思わせる口調で投稿していたようです。

ただし、厳密にはアライさん界隈という名前の団体があるわけではありません。

これに参加するための審査や明確なルールのほか、管理者がいるわけではなく、同じような形式で活動する複数のアカウントが緩やかにつながった結果、1つの界隈として認識されるようになったという経緯があります。

このことから、どこからどこまでをアライさん界隈と呼ぶのかについても明確な境界線は存在しません。

なりきりアカウントとは異なる

通常のなりきりアカウントであれば、「仮にこのキャラクターがXをやっていた場合は?」という設定で、原作の性格や世界観に沿った投稿をします。

ところが、アライさん界隈で語られるのは中の人が現実で経験している出来事となっています。仕事、学校、人間関係、生活における失敗談、心身の不調などです。

そのため、この界隈の実態は、アライさんという架空のキャラクターを演じるよりも「アライさんの口調を借り、そういったことを吐露する」となっています。

2019年にこの現象を取り上げたねとらぼ様の記事でも、アライさん界隈はさまざまな困難を抱える人々がアライさんの姿を借り自身について語る現象として分析されています。

なぜアライさんである必要があるのか

それでは、なぜ数あるキャラクターのなかからアライさんが選ばれたのでしょうか。

1つは、アライさん特有の話し方が関係していると考えられます。

例として

「会社で大失敗をしてしまった。明日会社に行くのが怖い」

とそのまま書くと、かなり深刻な印象を受けます。

しかし

「今日は会社で大きな失敗をしてしまったのだ。明日会社に行きたくないのだ……」

とアライさんが喋っているように書くだけで、内容そのものは同様であっても文章の印象が少々異なります。

もちろん、問題そのものが軽くなったわけではありませんが、キャラクターのかわいらしい口調が間に入ることで、深刻な出来事と本人との間にわずかな距離が生まれます。

この距離感こそ、アライさん界隈を考えるうえで重要な要素なのかもしれません。

アライさん界隈が持つ役割

この界隈は、かつて「匿名自助グループ」として紹介されたことがあります。

ただし、専門家によって運営されている正式な支援団体ではありません。

そのため、正確には「自助グループ」ではなく、自助的な機能を持つネットコミュニティと考える方が適切だと投稿者は考えています。

それでは、具体的にどのような役割があるのでしょうか。

「自分だけではない」と確認できる場所

まず考えられるのは、似た経験を持つ人と交流できることが挙げられます。

現実では

「人間関係が上手くいかず社会生活になじめない」といった悩みを周囲に話せない深刻な心の闇を抱えていることがあります。

ところが、アライさん界隈には似たような経験を持つ別のアライさんが存在します。

自分の悩みをSNSに書き、「アライさんも同じなのだ」という反応が返ってくる。

のみならず、「これで苦しんでいるのは自分だけではなかった」と気が付くきっかけになる可能性があります。

こうした意味では、アライさん界隈は個人の悩みを解決する場所というよりも、孤立感を一時的に薄める場所として機能する場合があると考えられます。

弱さを見せてもいいという共通認識

一般的なSNSでは、自分の成功談や充実した生活を発信するユーザーも少なくありません。

一方、アライさん界隈はその逆を行く傾向のある文化となっています。

人間関係で困っており生活が上手くいかない。

そうした、本来であれば隠したくなるような部分まで「〇〇なのだ」という共通の形式に変換して投稿されます。

その結果「ここでは格好悪い自分についても話しても構わない」という暗黙の雰囲気が作られたことも、この界隈が拡大した理由の1つなのかもしれません。

アライさん界隈独自の用語

この界隈では語尾を「なのだ」にするのみならず、長年の交流によってさまざまな独自用語が生まれています。

けものフレンズに登場する言葉を流用したものもあれば、アライさん界隈のなかで独自の意味を持つようになったものもあります。

なお、前述したようにこの界隈には正式なルールや管理者は存在せず、これらの言葉の意味や使われ方はユーザーによって多少異なります。

ア界隈

「アライさん界隈」を短くした呼び方となっています。

「ア界隈で見かけた」などと使用されるようです。

〇〇イさん

アライさん界隈では、それぞれのアカウントが自分の特徴や境遇を「〇〇なアライさん」のような名前で表現することがあります。

そして、その名前の一部分を使用し短い呼び名を作る文化があります。

例えば

「興味がないアライさん」という名称のユーザーがいたとしましょう。

この場合は「味ライさん」のような略称を作ることになります。

つまり、アライさん界隈では、全員が同じアライさんという姿を使用しつつ、名前によって個々の境遇や個性を表現しているのです。

フェネック

フェネックは、前述したように、アライさんと同じくけものフレンズに登場するキャラクターです。

本編ではアライさんと行動を共にする相棒のような存在で、この関係性からアライさん界隈では、恋人や配偶者、パートナーなどをフェネックと呼ぶことがあります。

例として

「今日はフェネックと映画を見に行ってきたのだ」

といった書き込みがあった場合、書き込み主のパートナーなどを指している可能性があります。

アライさん界隈では、アライさんというキャラクターのみならずリアルな人間関係もけものフレンズの世界観になぞられて表現されることがあるのです。

なお、フェネックの皮をかぶったユーザーは、そういった存在をアライさんと呼びます。

わっせ

これは、誰かを応援する際に使用される表現です。

この言葉自体は完全にアライさん界隈で生まれたものではなくけものフレンズにも由来があります。

アニメ本編では、アライさんとフェネックが「わっせ、わっせ」とかけ声を発する場面があります。

こうした言葉が界隈にも取り込まれ、相手を応援するときに使われるようになりました。

アライさん界隈での交流と注意点

アライさん界隈では、ほかのユーザーに描いてもらったアライさんのイラストをアイコンとして活用し、日々の出来事を書き込んでいます。

それだけではなく、ツイキャスやXのスペースなどを利用し、声によるコミュニケーションを楽しむユーザーも見受けられます。

さらに、ネット上での交流にとどまらず、実際に顔を合わせて遊ぶオフ会を開催することもあるようです。

こうしたことから、アライさん界隈は単純に悩みを投稿するだけの場所ではなく、ユーザー同士が交流し人間関係を築くコミュニティとしての側面も持っています。

一方で、不特定多数のユーザーが参加できるネットコミュニティである以上、交流には注意が必要です。

この界隈にも、純粋な交流ではなく、出会いや性的な関係を目的として接触する人物について注意を促す声もあります。

また、ほかのユーザーから情報を集めそれを外部の掲示板や、いわゆる「ヲチスレ」などに転載したり書き込んだりする行為が問題視されているようです。

そのため、アライさんという共通のキャラクターを使用しているからと言って、相手が必ずしも信用できるとは限りません。

特に、個人情報を伝えたり実際に会ったりする場合は、一般的なSNSと同様に慎重な判断が求められます。

投稿者の見解

アライさん界隈には、孤立しがちなユーザー同士がアライさんの皮をかぶることで、普段は他人に話しにくい悩みや弱さを打ち明けられる部分があると投稿者は考えます。

もちろん、すべてのユーザーがそうであるとは言いませんが。

アライさん界隈は、何かの問題を直接解決してくれる場所ではありません。

それでも、立場や年齢などにかかわらず、ときには同じような悩みを抱えるユーザー同士が支えあえる環境の1つになっているのではないでしょうか。

アライさん界隈が気持ち悪いと言われる理由は?

アライさん界隈について検索すると、検索候補に「アライさん界隈 気持ち悪い」もしくは「嫌い」という言葉が表示されることがあります。

ただし、ここで言っておきたいこととして、検索候補に表示されているからと言って「大勢がアライさん界隈が嫌いであり気持ち悪い」と思っているとは限らないということがあります。

むしろ、大勢の人は無関心ではないかと投稿者は考えています。

この項目では、アライさん界隈は気持ち悪いと結論付けず、なぜこうした印象を抱かれるのか考えてみます。

独特の光景に見えるため

まず考えられるのは、この界隈を知らない人から見ると不可思議な光景に映ることです。

実際に、アライさん界隈ではアライさんのアイコンを設定した複数のユーザーが同じような喋り方で会話を繰り広げています。

そのため、事情を知らない人がその様子を突然目にすれば「なぜ大勢のユーザーが同じキャラクターのふりをして会話をしているのだろう?」

と困惑するのも不思議ではありません。

かわいいキャラクターと重い話題のギャップ

かわいらしいキャラクターの姿と、そこで語られる内容との落差も理由の1つとして考えられます。

この界隈では、闇深い悩みが語られることも少なくありません。

一方で「〇〇なのだ」という口調で発信するため、事情を知らない人には不自然に感じられる可能性もあるでしょう。

しかし、このギャップはアライさん界隈が成立した理由の1つでもあります。

「アライさん界隈 気持ち悪い」および「嫌い」という検索候補が表示される背景には、このコミュニティが一般的なSNSとは大きく異なる独特な文化を形成していることも関係しているのかもしれません。

最後に

検索するとネガティブな言葉がサジェストに表示されることもあるアライさん界隈。

同じキャラクターの皮をかぶった人々が「〇〇なのだ」という口調で会話している光景に、驚く人もいるかもしれません。

その一方で、普段は見せにくい自分の弱さを打ち明け、それを誰かが受け止める場所として機能することもあります。誰かに弱さを見せられる数少ないネットコミュニティであるとも考えられます。

そのため、このネットコミュニティやユーザーを安易に否定したり面白半分に干渉したりするべきではないでしょう。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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ありつむぎ
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