生物

日本住血吸虫について解説します

どうも、ありつむぎです。

今回は、かつて115年にわたって人々に絶望をもたらし続けた寄生虫「日本住血吸虫」とその撲滅に至るまでの経緯などについて取り上げていきます。

なるべく簡潔に説明するので、最後まで読んでいただければと思います。

その他の寄生虫については以下の記事で取り上げています。

はじまり

日本住血吸虫(じゅうけつきゅうちゅう)は、山梨県の中央部に位置する6つの地域の農民を襲った寄生虫です。

雌雄一体(場合によってオスにもメスにもなれる存在)で、オスの体長は最大18ミリ、メスの体長は最大25ミリです。

人、猫、犬、牛などの哺乳類の血管に寄生しながら赤血球を栄養源に生き続ける特徴があり、70~100×50~70マイクロメートルの小さな卵を産み落とします。

その卵は水中で孵化し、成長後は後述する中間宿主となる特定の貝に寄生して成長を続け、その後に人を含む哺乳類に寄生することが分かっています。

この寄生虫が起こす地方病の症状として、発熱、下痢、手足が徐々に細くなる、腹に水がたまって肥大化するといったことが挙げられます。

そして、最後は身動きが取れなくなって死亡してしまうのです。こうした症状は1500年代には存在していたと言われています。

ですが、当時はこうした症状の原因が日本住血吸虫によるものだと判明しておらず、農民からは、長きにわたって原因不明の地方病もしくは呪いとして扱われていました。さらに、対処法は存在しておらず、一度罹ってしまえば死を待つしかないと考えられていたようです。

なお、甲府盆地の中でも「登美村(とみむら)」という村での発症率は5割以上と特に高く、登美村に行くなら棺桶を背負っていけと言われるほどの悪評があったとのこと。

また、村人の間では「蛍を捕りに行くと腹が膨れて死んでしまう」という迷信が囁かれていました。

そんな状況の中、1881年に春日居村(かすがいむら)の戸長は、この地方病の原因がまったく分からず困窮していることを明かし、真相解明のための嘆願書を県に提出します。

それから、農民、行政、医者がこの地方病の原因を探り始めたものの、それは一向に分からず、多くの人の頭を悩ませ続けました。

特定作業

そんなあるとき、山梨県出身の医師「吉岡順作さん」が名乗りを上げます。

吉岡さんは、この地方病の患者を診察して、患者の中に肝臓が痛む者がいたことと同時に患者が住む場所を地図でまとめました。

その結果、患者の多くは川沿いの村に住んでいることが判明しました。さらに、迷信で語られていた蛍がいるのは水辺であり、地方病の患者も水辺で暮らしていた点が一致。そのため、この病気の原因は水に関係していることを明らかにします。

ただし、このときの水は汚染されておらず、それ以外の情報がまったくなかったため、地方病の原因は突き止められませんでした。

そのため、吉岡さんは頭を抱えることになり、地方病で死亡した人を解剖して原因を究明することを考えます。ですが、当時の人々は死後であるにも関わらずメスで体を切られることを極度に恐れていたようです。

そのため、吉岡さんは思うように原因を突き止めることができずに困窮してしまいました。

解剖

そんなとき、ある女性患者が「自分がもう助からないのであれば、死後に体を解剖して地方病から村を救ってほしい」と申し出ました。

そして、その女性が死亡した後、57人の医者の立会いの元解剖が行われました。

その結果、この女性の肝臓は肥大化しており、その肝臓に謎の寄生虫の卵が産みつけられていたことが判明します。加えて、血管は肥大化して結塞していました。

この解剖は、後に地方病の解決に大きく貢献することになります。

新種の寄生虫

また、吉岡さんの他にも同じく地方病の研究をしていた人がいました。

その人は内科医である「三神三郎(みかみさぶろう)さん」

彼も吉岡さんと同じく地方病の診察を担当していました。そして、地方病についての討論会において地方病の原因と思しきものを提示しています。

その原因とは、地方病の患者の排泄物に混ざっていた新種の寄生虫の卵でした。どうやら、顕微鏡を使用して患者たちの排泄物を入念に観察して発見したようです。

さらに三神さんは、女性の肝臓で見られた卵は地方病と関連している新種の寄生虫の存在を示唆しているのではないかとも考えていたとのこと。

そして、この卵を産んだ存在こそが地方病を起こした諸悪の根源ではないかと主張しました。

ですがここでは卵と地方病の因果関係が認められませんでした。

そんなとき、この討論会に参加していた病理学者「桂田富士郎さん」が姿を見せて、三神さんと意気投合。それから、三神さんと桂田さんは、地方病の原因は新種の寄生虫であるという証拠を探し始めるようになります。

まずは、吉岡さんが行った解剖結果を参考に、問題となる寄生虫の生態系や行動といった情報をかき集めていくことにしました。その結果、地方病を起こしているのは今までのような消化器官に寄生するものではない新しいタイプの寄生虫である可能性が生じました。

次に、寄生虫そのものの調査が必要だと考えます。寄生虫は、宿主から栄養を吸い上げて成長する存在です。そのため、捕獲するには宿主に寄生した日本住血吸虫を成長させることが必須となっています。

そこで三神さんは、自身が日ごろからかわいがっていたものの地方病を患ってしまった飼い猫を泣く泣く解剖することに。解剖を行った結果、その内部から生きている新種の寄生虫を発見しました

その後、この寄生虫が今回の地方病を起こしているものと同一の存在であることが判明し、この寄生虫と地方病との因果関係が証明されました。なお、この寄生虫は後に「日本住血吸虫」と名付けられました。

感染経路

そんな日本住血吸虫ですが、感染経路は依然として不明でした。

そんな中。

京都帝国大学皮膚科教授の「松浦有志太郎(うしたろう)さん」は、自身の体を使って感染経路を調べる実験を行いました。また、当時の農民の間で話題になっていた、田んぼに入ったときに肌が赤く腫れあがる「泥かぶれ」という現象の情報が医師の耳に入ります。

こうしたことから日本住血吸虫は皮膚から侵入している可能性が示されました。

さらに、17頭の牛を使った実験の結果、経皮感染予防をしていなかった個体群が日本住血吸虫に感染していたことも分かっています。

かつての日本では、寄生虫は口から入ってくるという考えが一般的で、皮膚から侵入してくるというのは奇妙な話だと捉えられていたようです。

ですが、松浦さんの実験や農民からの情報の他、実験で使用された牛が経皮感染していたこともあり、日本住血吸虫は経皮感染をする寄生虫であることが確定しました。

中間宿主の存在

また、さらなる実験によって、孵化したばかりの日本住血吸虫は人を含む哺乳類に寄生することができず、そのままの状態だと48時間以内に死滅することも明らかになります。

このことから、日本住血吸虫の生まれたばかりの個体は、しばらくの間「中間宿主」に寄生して成長し、それから人を含む哺乳類に寄生することが判明しました。

つまり、この中間宿主を特定して撲滅すれば、おのずとすべての日本住血吸虫も死滅に追い込むことができるということです。

そして調査を行ったところ、中間宿主の正体は、後に「ミヤイリガイ」と名付けられる新種の巻貝であることが判明しました。ミヤイリガイは別名でカタヤマガイとも呼ばれています。

そのため、ミヤイリガイをせん滅することによって地方病は消滅することが確定しました。

日本住血吸虫撲滅までの経緯

ただし、ミヤイリガイは狭い範囲に数100匹以上の個体を生み出すほど繁殖力が高いことも判明しています。

なので、ミヤイリガイを手作業ですべて除去することは現実的ではありません。そこで、ミヤイリガイの生息地を火炎放射器で焼き払ったり殺貝剤(さつばつざい)を散布するといった作業が開始されます。

さらに、ミヤイリガイが生息しにくい環境を整えるために用水路のコンクリート化も行われました。このコンクリート化の事業には力が入っており、1956年から1985年にかけて100億円以上の資金が投入され、合計2000キロメートルを超える用水路をコンクリート化したのです。

こうした対策により、この地方病の患者数は減少していくことになります。

そして1996年、山梨県は地方病の終息を宣言して115年にも渡るこの騒動に終止符を打ちました。

ただし、ミヤイリガイ自体は絶滅しておらず、現在も千葉県や山梨県の甲府盆地北西部の川などに生息しているため、今後同じような地方病が再流行する可能性は僅かながら存在しているようです。

最後に

以上で解説を終了します。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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ありつむぎ
ありつむぎです。ライター兼ブロガーです。 サブカルチャーを始めとした幅広いジャンルの情報を紹介します。 未成年者に適さない記事と画像リンクなども掲載しているのでご注意ください。 お仕事の依頼および広告掲載のご相談等は、私のXアカウント(@kmz811)へのDMもしくはサイト内のお問い合わせフォームからお願いします。
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